Mon.

季節移ろふ狭間に居りぬ


台風の余波にて暑きこの夜更け鎮守の森の蝉時雨
(せみしぐれ)止まず



昼は蝉夜はこほろぎの声のして季節移ろふ狭間
(はざま)に居りぬ



故のなき腱鞘炎
(けんしょうえん)をかこちつつ夏過ぎむとす蜩(ひぐらし)の声



母59歳の最後の夏が過ぎようとしています。



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Thu.

あのねおばあちゃん!


離れ住む孫が電話にたどたどと幼稚園に兎いるよと告げぬ



クッキーの型抜きしつつ幼児
(をさなご)は作るよろこび一つ知るらし



意味もなく線引きゐたる幼児がこのごろ人の顔書きはじむ



「お」の付くと言へばすかさず
         おかあさん!と児
(こ)は叫ぶなり言葉あそびに



あのねおばあちゃん!で始まる児の電話
         今日はメガレンジャーの話にて終ふ



兄の子を詠んだものです。
母59歳、兄の子は3歳の頃でした。


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Tue.

立秋の


立秋の日の習ひにて夜明け前清流に水浴びし幼日
(をさなび)



立秋とは、去る8月7日でした。
またしても掲載時期を逸してしまいました。
母が58歳の時の作品です。


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Tue.

夫もわれも


年のせいと医師の言わぬは嬉しとて待合室に老ひ人溢
(あふ)


(つま)もわれも朝餉の後をいくつかの薬並べ飲む勤めのやうに


いつも元気と思っていた母も、
そんな風に薬を飲むようなことがあったのですね。知りませんでした。
父は、心臓を患っていたのと糖尿とで、何年も薬を服用していました。
母が59歳の時の作品です。


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Sun.

「下山事件」夏幾十度


新聞を読みそめし頃の記憶なる「下山事件」夏幾十度


母が55歳の時の作品です。

「下山事件」を、インターネットで調べてみました。
(以下の文章は、主としてウィキペディアからの抜粋です。)

「下山事件」 
1949年(昭和24年)7月5日朝、日本国有鉄道初代総裁・下山定則(しもやま さだのり)氏が、出勤途中に三越日本橋本店で失踪、翌日未明に常磐線綾瀬駅付近で轢断死体となって発見された事件。
戦後史最大の謎と呼ばれている。同事件から1ヵ月あまりの間に立て続けに発生した「三鷹事件」、「松川事件」と合わせて、国鉄の戦後三大ミステリーとも呼ばれる。

この年、母は11歳でした。



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Sat.

川にひととき水とたはむる


帰国せし幼児
(をさなご)は日々日本語に馴染むらしわれの言ふも聞き分く


二年ぶり帰国せし児
(こ)と山あひの川に一時(ひととき)水とたはむる



この年の6月に、私達一家はドイツから日本に戻りました。

帰国後に私が二人の子供達を連れて実家を訪れたのは、
7月に1週間ほどと、あとは8月のお盆の頃に1週間ほどだったかと思います。
私が母と最後に会ったのは、そのお盆の時でした。

一句目の「幼児」というのは、私の上の子です。あと2ヶ月で4歳になるという頃でした。
二句目は、母が亡くなってから「毎日歌壇(毎日新聞)」に掲載された句だったように記憶しています。
母59歳の、最後の夏でした。


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Fri.

河鹿鳴く声は


河鹿
(かじか)鳴く声はいつより絶えしかと亡父の嘆きし川に来て佇(た)



この川の写真がないかとインターネットで探してみたのですが、見つかりませんでした。残念!
母59歳の時の作品です。


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Wed.

ゴム風船の顔笑ひをり


(ふすま)ごしに笛吹くごとくとほりくる小児喘息の甥の寝息は


幼姪
(をさなめひ)去りて幾日かしぼみつつゴム風船の顔笑ひをり


泊り客去りし畳にねころびて常の生活の気安さにゐる


夏休みに親戚が泊まりに来た時のことですね。
母が33〜36歳の頃の作品で、ということは私は11〜14歳でした。
若かったですねー(笑)。


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Tue.

目的もなけれど


夏物の大安売りに集まりし人に混りてブラウスを買ふ


目的もなけれど歩み秋植ゑの球根買ひぬ祭の露店に


人ごみの中に母がいる、そんな風景を思い浮かべる時、私はついしんみりとしてしまいます。
順に母が59、58歳の時の作品です。


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23:30 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sun.

登る穂は


落つる汗袖に拭
(ぬぐ)ひて草引けば額に涼しき一陣の風


稲田


稲の穂の茂るばかりと見ゆれども根方太りて穂を育
(はぐく)める


登る穂は日に日に見えて梅雨明けの続く日差しに稲田かがやく


稲の花
稲の写真は季節の花300さんのサイトからお借りしています。


母が59歳の時の作品です。
最後の句に、「梅雨明けの日差し」とあります。
今は8月の下旬。もっと早い時期に掲載すればよかったです。

歌集「花咲く道」には、昭和45(1970)年から平成9(1997)年の27年間に渡る母の短歌作品を、時系列に収めてあります。私はいつも、歌集全体を眺めては、各年の作品から今の時期に合わせて歌を選んでいるつもりなのですが、どうしても見落としが出てきて、こんな風に時期を逸して掲載することになってしまいます。

今年2月に始めたこのブログ、約一年をかけ季節が一巡りする間に、ほぼ全ての作品を掲載できるかな、と思っています。これまでにほぼ半数を掲載できたあたりでしょうか。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。


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06:05 | 農作業 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sat.

生まれし子抱き


親切な人多しと言ふ異国にて二人目の子を生みし娘は


ドイツに移り住んで1年ほどした頃に、下の子が生まれました。



親切な異国の人に助けられ生まれし子抱き娘
(こ)は帰国しぬ


二年弱住んだドイツからまた東京に戻ることになりました。
ドイツで生まれた下の子が1才になるかならないかの頃で、
上の子は3歳半を過ぎていました。
母59歳の時の作品です。


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Fri.

百合ひと群は


夜もすがら雨の音して明けし朝百合ひと群は首傾
(かし)げ立つ


百合百合
                       花の写真は季節の花300さんのサイトからお借りしています。


母59歳の、最後の夏でした。


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Fri.

初もぎの胡瓜一本


ささやかなわが菜園の初もぎの胡瓜
(きゅうり)一本夫(つま)と分け合ふ


きゅうり
きゅうりの写真は季節の花300さんのサイトからお借りしています。



茄子胡瓜の漬物旨き季節来て腹八分目行ひ難し


母が59歳の時の作品です。
母の塩分控えめの漬物は、私も大好きでした。


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05:00 | 花、野菜 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

衰へてなほ咲き続く


朝顔の蔓
(つる)が乱れて寄る窓を閉づる時並ぶ蕾(つぼみ)をかばふ


この歌は、母が36歳の時の作品で、祖母の窓辺の朝顔だったように思われます。
10年も寝たきりだった祖母は、この年の夏に亡くなりました。
この2年前の作品に、
いささかの慰めとならむ常臥しの姑の窓辺に朝顔を植う
という歌があります。


asagao2.jpgasagao1.jpg
                      花の写真は季節の花300さんのサイトからお借りしています。



衰へてなほ咲き続く朝顔の日に日に小さき花をいとしむ


これは母が46歳の時の作品です。
縁側のすぐ外に朝顔が植えられていたような気もしますが…。


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Mon.

帰国決まれば唯に待ちをり


生まれてより相見ぬ孫の丸き顔ビデオの中に声たて笑ふ


手に触
(ふ)るるものみな口へもちゆく児(こ)
          易々
(やすやす)己が足の指も銜(くは)




われの顔記憶にありや二年会わぬ児は電話にておばあちゃんと言ふ


われの顔記憶にありや二年ぶり帰国する子をただに待ちをり




外国に生まれしまだ見ぬ幼孫帰国決まれば唯に待ちをり



全て母が59歳の時の作品です。後の三句はどれも似た作品ですね。
電話で「おばあちゃん」と言ったのは上の子のほうで、
この時3歳半を過ぎたくらいだったでしょうか。
私達はドイツに2年住んだ後、また東京に戻ることになりました。


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Mon.

一年ぶり


一年ぶり邦人に会ひ話せしと便り寄越
(よこ)しぬ子は異国より


ドイツに初めて住んだ私は、当時は身近に日本人の知り合いが誰もいませんでした。
前に掲載したことのある
「老眼鏡に馴染めず眼疲れつつ遠き異国の子へ便り書く」
の歌が、花咲く道の本の中ではこの句に続いています。
母が58歳の時の作品です。


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Fri.

遠花火


遠花火夫
(つま)と見てをり陽のぬくみ去りて清しき物干し台に


脱ぎ捨てし小さき浴衣の汗ばみて踊り疲れし子は眠りをり


以上の二句は、母が33歳の時の作品です。
「踊り疲れし子」が私のことならば、私はその時11歳だったことになります。
この二句目、私はとても気に入っています。



頭上にて音轟
(とどろ)きぬ高速路に視界断たれて見えぬ花火は


高速路とは関越自動車道のことだと思います。
高速道路の高架下からの風景だったのでしょうか…。
母45歳の時の作品です。



受話器より祭太鼓のきこゆると帰省せぬ子のなつかしむ声


これは母が55歳の時の作品です。
この「子」は私のことだと思います。
あ、太鼓が聞こえる!懐かしいっ!と電話で言った記憶があります。
ちなみにこの時私は既に33歳でした。


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Tue.

太陽のごとき


太陽のごとき初孫あかんべえもこのごろ覚え三歳となる


母親の叱る口調をそのままに三歳の孫われに言ふなり


(うつむ)きて涙こらふる時もあり三歳の心すでに大人ぶ



前回と同じ頃の作品です。


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Sun.

鳥が忘れて行ったねと


自転車に乗せて走れば喜びて児
(こ)は知る限りの歌うたふなり


桃太郎のはなし終るころ幼児
(をさなご)はすでに眠りぬわが胸元に


一人でも登れると手をふりほどき坂歩き出す児を見守りぬ


道の辺の黒き羽根指し幼児は鳥が忘れて行ったねと言ふ


ゆふぐれは母の帰りを待ちてゐる児が車の音に耳を欹
(そばだ)



母は日中兄の子を預かっていました。
兄の子が2歳半から3歳になる頃の、そして母が58歳の頃の作品です。


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Sun.

わが人生まだ先長きと


父母祖父母長生きせざりしわが家系に米寿祝ひし叔母在りて嬉し


わが人生まだ先長きと八十と九十のおば健やかにゐて



母56、58歳の頃の作品です。


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Fri.

月下美人は夜の風に


咲き満ちて月下美人は夜の風にほのゆらぐたび香りを放つ


咲き満ちて真夜馥郁
(ふくいく)と香りゐむ月下美人を思ひて眠る


月下美人
花の写真は季節の花300さんのサイトからお借りしています。


月下美人、私は写真で見るまでその花の姿を知りませんでした。
夜に咲く花、なのですか。
母が55、56歳の頃の作品です。


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Thu.

背高き茶髪の


時に会ふ背高き茶髪の若者は快活にして挨拶すがし


長き髪運転席になびかせて女性駆り行く大きダンプを




風が返す和服の裾も美しき老婦人と並ぶホームのベンチ


昼下がりのホームに待てば入り来し電車は熱き風を伴ふ



母57〜59歳の頃の作品です。


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Wed.

時にふと


昼寝より目覚めし孫は我がゐるを確かめて又暫
(しばら)く眠る


前髪に風吹き額の出でしとき二歳の孫は夫
(つま)によく似る


時にふと思ふことありこの孫の記憶に残るわれや如何にと



日中預かっていた兄の子を歌ったものです。
母が58歳の頃の作品です。


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Mon.

闇より匂ふくちなしの花


今日もまた暑くなるらし夜明け待ちて聞こえ来るなり蝉の合唱


四季の花美しく咲かす家ありて行くが楽しきこの裏通り


夜更けまで窓開け放つ熱帯夜闇より匂
(にほ)ふくちなしの花



暑いですねー。
母はとにかく暑いのが苦手でしたが、皆さんはバテていませんか。

母が58歳の頃の作品です。


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Sun.

ハッピーバースディ


(こ)の傍(そば)に幼孫ゐて何か言ふ声重なりぬ国際電話に


外国に育てば孫は二歳にてわが知らぬ言葉片言にいふ


私がドイツから電話をかけた時のことですね。


たどたどと二歳児歌ふに声合はせハッピーバースディわれも歌ひぬ


兄の子の2歳を祝った歌です。

母が57、58歳の頃の作品です。


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Fri.

暗記するほど

上の子が1歳半を過ぎた頃に、主人の仕事の関係で東京からドイツに移ることになりました。
下の子は、ドイツで生まれました。
 

外国に生まれし未だ見ぬ孫の見目
(みめ)日毎夜毎に思ひて眠る


暗記するほど眺めをり外国に生まれて会ひ得ぬ孫の写真を




外国に生まれて未だ見ぬ孫の顔折節
(をりふし)思ひ一年過ぎぬ



母58歳の頃の作品です。


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Thu.

待てど待てど


待てど待てど雨は降らざり豆植うると固き畑土打てば舞ひ立つ


晴天の続き嬉しきひとつにて南瓜
(かぼちゃ)の雌花(めばな)みな実となりぬ



とにかく暑いのが苦手な母でしたが、
こうして嬉しいことも見つけては暑さに耐えていたのでしょうか。
母56歳の頃の作品です。


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Thu.

松葉ぼたんは


晴天の続きて暑き日盛りを松葉ぼたんは賑
(にぎ)やかに咲く



母56歳の頃の作品です。


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Tue.

親子の鴨は


朝霧の流るる水面水皺を引きて親子の鴨は遊べる


対岸の柳林に鳴く鳥の声賑
(にぎ)やかに届く土手歩む



家から自転車で10分ほど行くと橋があって、
それを渡って右に折れると川沿いに土手が続きます。
おそらくその土手のことだと思います。
母が56、57歳の頃の作品です。


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Mon.

茗荷の葉群


炎天の十日続けど朝見れば茗荷
(みょうが)の葉群露しとどなる


みょうが


母が48歳の頃の作品です。


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