Sat.

湿りたる風が運びて

随分と長いこと、ブログを放っておいてしまいました。

これまでに「花咲く道」ブログを訪問して下さった方々、どうもありがとうございました。
ブログの更新を、今月で終了したいと思います。

もう一度、歌集の最初の方から順にページをめくり、
これまでの未掲載分から適当に選んで載せて行きますので、
季節にそぐわない歌が脈絡も無く並ぶこともあるかと思いますがご了承を。
それでは行きましょう。



湿りたる風が運びて夜の窓を閉じても栗の花房にほふ



新築の向ひ家に今宵灯が点り子らのはしゃぎて動く影見ゆ



老衰に死ぬるが幸といふ医師のことば思ひつつ投薬を待つ



発車近き下りの列車ざはめきて訛
(なまり)親しき人ら溢(あふ)るる



勤めざる我も土曜を安らぎて目覚ましのねじ巻かずに眠る



昭和45年、母が32歳の頃の作品です。


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Mon.

夕餉あと


夕餉あと居眠る夫
(つま)よ思はざるきびしさありや再度の職は


腰曲ぐるゲートボールは好まずと夫は歌書く職退きてより


高校の教員だった父は、定年退職後しばらくして
非常勤講師として再度勤めることになりました。
母50歳、父62歳でした。


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Tue.

目を瞬く花嫁の父


病持つ身なれど具合よき夫
(つま)と駅の階段並びて登る


挨拶の言葉つまりてしばしばも目を瞬
(しばたた)く花嫁の父


姪の結婚式で上京したときの歌のようです。
母58歳、父70歳でした。

次も同様の歌で、その一年後になります。


祝詞受くる横顔少し淋しげに義弟今日は花嫁の父


歩み行く多摩川べりの目交
(まなか)ひに羽田空港海にひらけり


次々に航空機たつ目交ひの羽田空港見つつ散歩す



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Wed.

わが春愁は


冬の間に逝きし幾人思ひゐるわが春愁は父母逝きし後


母が49歳の時の作品です。
父親が亡くなり15年が、母親が亡くなり4年が経っています。


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Tue.

職退きて

更新せぬまま随分とまた日が経ってしまいました。
3月も今日で終わりですね。



職退
(の)きてさびしき夫(つま)か時かけて離れ住む子らへ手紙書きをり


職退きしことへ便りも来ずなりて家居の日々に夫慣れるらし


父がその年の3月で教職を定年退職し、数ヶ月ほど経った頃の歌です。
しかしじきに、父は非常勤講師として再度勤務することになります。


乞はるるはしあわせと言ひて還暦の夫は再び勤めに出づる


母48歳、父60歳でした。


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Wed.

晩年の父と今の私

今回掲載のエッセイは、母が44歳の頃に書いたものです。
どのような経緯で書いたものか、具体的には私はわかりませんが、
当時地元の有線放送で母の朗読が放送されたそうです。


晩年の父と今の私

 実家の父が亡くなって十年過ぎました。六十九才でした。父はその日まで元気で、近く上京すると云っていたので、突然倒れ三時間足らずで息をひきとってしまった時には、本当に呆然といたしました。昭和四十七年の春は雪消えが早く、三月の末には水仙の花が咲きかける程に暖かかったのですが、その日は大変冷たい風が吹き荒れ、その夜に雪が二十センチ程降ったのを覚えています。そのような気候の変化が脳溢血という父の死因となった病気を誘ったのかも知れません。父が急にいなくなってみると、親孝行のようなことを何もしていなかったと思われて、悔いの残ることがいろいろとありました。

 晩年の父は、「この歳になれば、来年のことまで考えるよりも、今年を一生懸命生きることが大切だ」と云っておりました。そのせいか何につけても意欲的で、表具の技術を覚えてたちまち玄人はだしになったり、菊作りをしたり、三味線をひいたり、せっせと日記をつけたりものを書いたりと、なかなか忙しそうでした。特に父の芝居好きは、地域では有名であったようです。最近は高齢者の生き方のことが話題になり、生きがい発見のお手伝い的な行事も盛んですが、その点、したいことが沢山あって忙しかった晩年の父は、幸せであったと思います。それは、父が健康であったことと、父の性格によるものと思いますが、大きな心配ごとなどがなく、父が好きなことをしていられたのは、何よりも実家の家族のお蔭であったと思い、感謝しています。

今の私はまだとても父の境地にはなれませんが、病弱であった主人の両親が亡くなり、子供達が就職して家を離れた今は、時間のゆとりが持てるようになりました。最近教えて下さる方があって、父がしていた菊作りを私もするようになり、何となく父の心境に近づいているような気がいたします。父が亡くなった当時、父は彼岸の彼方の手の届かぬところへ消えてしまったと思われたのですが、このごろは私の心の中に父に非常によく似たものがあり、父が私の内に生きていることを強く感ずるようになりました。これが親子の絆というものだと思います。ものの見方や感じ方が似ているということは、顔や姿のこと以上に強く親と子を結びつけているものだと思われます。

 生前の父にさしたる孝行のできなかった私は、拙い歌など作りながら父を偲び、心の内の父に語りかけることをせめてもの供養と思っております。


父のお骨納めて佇てば父が植ゑし萩伸びゐたり墓にふれつつ


さし木して育てしつつじわが庭に植ゑよとかかへ来し父なりき


後手に組みし姿の亡き父に似し人に会ふ菊花展にて


海とふをはじめて見たる日和山われ幼かり亡父若かりき


父逝きて十年を経ぬ雪の面にけぶりて春の雨音もなし


 ところで、今の私が自分の晩年のことを考えるのは、まだ早いかもしれません。しかし、人生の折返し点を過ぎ、一年を短いと感じるようになってみると、余生という日が意外に早く来そうに思われます。その時、晩年の父のように、健康で、毎日忙しく楽しく過ごすにはどうしたらよいのでしょうか。年をとれば、体力も気力も弱くなって、今考えるような訳にはいかないかも知れませんし、一人で生きているのではない以上、否応無しに忙しい日々を送るはめになるかも知れません。いずれにせよ、私という人間は、案外柔軟に対応し、すんなり順応していけるであろうと楽観しながら、こういう考え方がまた、父にそっくりなのではないかと思ったりしております。


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Tue.

近き死を


近き死を知らで唄へる父の声テープに聞きぬ三回忌にて


三味線を弾き小唄を口ずさむ祖父の声がカセットテープに入っていたのでしょうか。
母36歳の時の作品です。


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Sat.

雪椿咲きぬ


去年植ゑし雪椿咲きぬ車庫裏の日光乏しき土になじみて

雪椿


雪止みは幾日振りか町に出てフリージア買い抱きて帰る

フリージア
花の写真は季節の花300さんからお借りしました。


母が53歳の頃でした。


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Sun.

最後の授業終ふと


定年を知らぬ生徒に常のごと最後の授業終ふと夫
(つま)云ふ


少しずつ私物鞄に持ち帰る夫は勤めを退
(の)く日迫りて


身をいとひ長生きせよと夫に言ふ夫の退きたる道歩む息
(こ)



母48歳、父60歳、そして、兄が29歳の頃でした。


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Fri.

詰襟の


詰襟
(つめえり)の新任教師たりし夫(つま)の定年迎ふは夢のごとしも


きつかりし日のこと言はず定年を迎ふる夫にやさしく生きむ



母48歳、父60歳でした。
長い教師生活を勤めあげ定年を迎えた父でした。


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Fri.

夜勤めの


夜勤めの子を待ち居れば降りいでて窓打つ時雨
(しぐれ)風を伴ふ


夜勤めの息子の車雪氷柱
(つらら)融けぬままあり朝の車庫に



兄が定時制高校に勤めていた頃の歌です。
当時兄は30代前半、母は50代前半でした。


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00:10 | 息子 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Fri.

孫の風邪

(このところ、すっかりご無沙汰してしまいました。)



如月
(きさらぎ)の日暮れの風の冷たさにをさな児急かせ手を引き帰る


孫の風邪癒
(い)えぬに心ふさぎつつ咳こむ背中摩(さす)り抱(いだ)きぬ


孫寝ねし時を惜しみて為すことの日々何かあり白菜漬くる


(こ)を乗せて引く橇(そり)軽く滑るなり野の雪今朝は固く凍(し)みゐて



兄の子が4才の頃の歌で、母は58〜59歳でした。


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Sat.

長男と鶏の話

昨年2月下旬に始めたこのブログ。
1年をかけ、季節が一巡りする間には、かなりの歌を掲載できるだろうと思っていました。

そして1年が過ぎ、掲載する句も残り少なくなりました。
今日は、母が大学ノートに書きとめていたエッセイを載せたいと思います。
書かれてある話は、おそらく今から約25年近く前のことのようです。
兄は大学を卒業して教職に就いていました。

長男と鶏の話

 長男が小さい頃、春まつりの露天で鶏のひなを買って来た。家族の足元にまとわりついてピヨピヨと鳴いているうちはよかったが、次第に大きくなりとさかも立派になると、夜の明けぬうちから、コケコッコーと時を告げるようになった。

 夏の夜は短いのに、家族一同この声に早起きを強いられて睡眠不足となり困ったが、尚しばらくは飼っていた。しかし、おんどりは気が強くなるばかりで、エサをやる手にかみついたりするので、親戚に処分してもらうことになり、私が送り届けたのであった。

 長男が大学を卒業し、高崎市の郊外に就職した。住居は市内の静かな住宅地だから、来てみるといいよという。高崎駅がまだ昔の姿の時である。ふと見ると、なるほど近くにお寺の大きな屋根があり、北の窓からは観音様もおがめる、結構な住まいであった。

 雪国から出て行った私は、もう桜が散り果てているような関東の陽気にのぼせてしまい、その日は早々と床についた。初任給で高い家賃を払って暮らしていけるのだろうかなどと思っているうち、いつか眠ってしまったが、翌朝なんとまだ暗いうちに、コケコッコーの声に起こされたのである。カーテンを手でよけて三階の窓から下をのぞくと、山路をへだてた向い家の庭にそれらしい小屋がぼんやり見える。うす明かりの中で、なつかしい声ではあるがこれは大変だなと思った。

 長男は、おんどりの鳴き声よりも月4万円の家賃に音を上げて、二年後に郊外へ引っ越した。一戸建てで、広々とした青空駐車場付きで、近くに田んぼもある田舎だよ、家賃が1万円安いから車を持ったけど大丈夫だよ、という。行ってみると、又々お隣さんはおんどりを飼っているのである。そのトリは一日中気の向いたときに鳴いている。鶏に縁があるねと云ったら、長男は、俺酉(トリ)年の生まれだからね、という。なるほど、それを忘れていたよ、そうだったねえと妙に納得したものであった。

 それから二年後の昨年、本人も希望していた新潟県へ就職することができた。それはよかったのだが、新任地は、小出も長岡も新潟さえ飛び越して、羽越本線の坂町駅の近くだという。高崎からは約三百キロ北である。住まいは一戸建てで、三部屋あるから楽々泊まれるし、庭もあるよ、という。又ニワトリに起こされるのかねえと云うと、いや今度はブタだよとの返事。・・・・・。隣は豚舎だそうである。

 近くに生きものがいると何となくのどかでほっとする、というのが長男の弁である。長男は、豚舎と背中合わせに、あと何年あの閑居に住むのであろうか。   (終)


文章には、私の方で多少の手直しを入れてあります。
もしかすると、あの世の母が、こんなものまで載せないでよと
恥ずかしがっているかも知れません。

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20:00 | エッセイ | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Mon.

震災の街に


空襲の跡さながらに焼け落ちし震災の街に冬の雨降る


(つま)も子も失ひて怖(こは)きものなしと言ふ人のあり余震の街に


悲しみは日に日に深し失ひし命五千余の無念思ひて


阪神大震災は平成7年のことでした。
母が57歳の時の作品です。


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Fri.

亡兄が手漉きの


義兄逝きし日のごと寒き短日を病棟の窓みな点りをり


撃沈の輸送船より逃れ出で波高き海ゆ
(=海から)亡兄は還りし


再びは生まれ来ぬもの掌
(て)に重し亡兄が手漉きの一帖の和紙



順に母が53、56、57歳の時の作品です。
義兄が亡くなってかなり時を経ているように思います。


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00:05 | 義兄 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Fri.

亡き父思ほゆ


冬の間の生業
(なりはひ)として和紙漉(す)きしわが幼日の里の思ほゆ


雪の上
(へ)に楮(こうぞ)(さら)して和紙漉きし亡き父思ほゆ冬めぐる度


母57歳の時の作品で、父親が亡くなって23年が経っています。


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Mon.

ただ一羽


わが車庫に巣立ちしならむ軒下に雪やどりして去りたる雀


ただ一羽何処をめざすや降りしきる雪空高く行く黒き鳥


母57歳の時の作品です。


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Mon.

背の子も


(せな)の子もおんもはだめと思ふらし鎮守の森に鳴る吹雪見て


日中預かっていた兄の子を詠んだものです。
兄の子が2歳、母が57歳の時の作品です。


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Fri.

雪晴れの


御社
(みやしろ)の大杉の秀(ほ)に白き鷺四方眺めをり雪晴れの午後


雪晴れの空を映して水青き流れの石に白鷺立てり


母が58歳の時の作品です。


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Fri.

入りつ日の


来客は昼にて途絶え元日は雪止まざれば家ごもり過ぐ


寒中の淡き日ざしを背にうけて幼
(をさな)の手を引き散歩に出でぬ


入りつ日の赤きが照らしひとときを遠雪山は紅に映
(は)


雪山をくれなゐに染め日は沈み歩む雪道すでに凍
(い)てそむ


降りて消え降りては消えて三度目は一夜に二尺根雪となりぬ


もう少しと衣縫ひてゐる雪の夜柱時計の時刻む音


母58歳の時の作品です。


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