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Sat.

彗星の尾は

引き続き未掲載分をまとめて掲載します。
今回が最後の更新となります。
平成9年、母が59歳の頃の作品です。



(み)でこぼし爪で拾ふはこのことと流出重油回収を見る



人工の光を避けて来し川原にて彗星の尾はおぼろに光る



去年二十今年四十花咲きぬ猩猩袴
(しょうじょうばかま)は庭に増えつつ

しょうじょうばかま
写真は全て季節の花300さんからお借りしました。


芽吹く木に先がけて咲くマンサクの花色おぼろ前山暮るる

マンサク



粘土こね蛇作りしと報告す幼稚園より帰りし孫は



選挙車の巡り来る度寝返りて午睡短く幼
(をさな)は目覚む



川原より不意に声して揚雲雀
(あげひばり)
       囀
(さへず)り乍(なが)ら空に紛れぬ



花咲けるリラの鉢植ゑ玄関に置きてその香を家に楽しむ



リラ冷えとふ
(=という)歌詞ありリラの花咲けるこの幾日雨降り肌寒し

リラ(ライラック)


雪国の月の遅れし鯉のぼり遠近に泳ぎ五月過ぎむとす



ゆふぐれの高速路行く郵便車青葉の山のトンネルに消ゆ



熱に臥す児
(こ)の枕辺に夫とゐて時ながきかな夏至の一日は



アパートの窓に花火の今見ゆと離れ住む児は電話かけ来ぬ



真夏日を喜びて咲く花羨
(とも)
       槿向日葵凌霄花
(むくげひまわりのうぜんかずら)

むくげ ひまわり
のうぜんかずら2 のうぜんかずら



毛抜きもて鯖の骨みな取り除き味噌に始むるわが夫のため



谷深く水音のして水見えず足元の木に蜩
(ひぐらし)の声



遠山に夕立激しく降る見えて俄
(にはか)に風の涼しくなりぬ



一日の洗濯物終へ朝までは手を休めむと湿布するなり




この最後の歌は、なかなか最期らしい作品だったかも知れないなと、
歌集本を編集していた頃に思いました。

このようにブログという形でインターネット上に母の作品を公開し、
これから先もまたどなたかの目にとまることがあって、
そして気に入って眺めて頂ければ、母も私も嬉しいです。

花咲く道ブログをこれまで見に来てくださった方々、どうもありがとうございました。
更新は今回で終了しますが、ブログはこのまま残しておきます。
また思い出してはいつでも覗きにいらしてくださいね。

ブログ管理人より


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Sat.

丹念に

引き続き未掲載分をまとめて掲載しています。
このブログも残すところあと2回の更新となります。

今回は平成9年で母が59歳の頃の作品から、
季節感が冬〜春の歌を掲載します。



(ほうき)もてパウダースノー掃くといふ厳寒の地に娘(こ)は冬を耐ふ



孫寝ねし間にすることの日々ありて今日は伴天の綿入れをする



丹念にわが縫ひ上げし夫
(つま)の袖その身に添ひて色合ひもよし



週末は雪止みしかば家毎に雪降ろしをり町並み行けば



家々の前降ろされし屋根の雪小山なせるを避けつつ歩む



四月並とテレビの伝ふ好天に鉢のプリムラ一輪咲きぬ



畑隅に植ゑて二年目未だ細き梅の苗木に花少し付く



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Tue.

おはやうと言へば若きは

引き続き未掲載分をまとめて掲載します。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は平成8年で母が58歳の頃の作品からの未掲載分です。


ほんのりと峠路に咲く山桜夫
(つま)の散歩に従(つ)き来て会ひぬ



高きより咲き広がりて下枝に蕾残れる桜大樹は



新しきアパートに入居はじまりて春宵の灯を明るく点す



夕風に片寄せられぬ水張りし代田に散りし桜の花は



雨近き兆しにあつき曇日を堆肥撒きをれば初蛙鳴く



母の日のプレゼントとて幼児
(をさなご)の手型足型娘(こ)は送り来ぬ



幾年を初夏来ればわが庭に咲く子が種子くれし異国の花は



外国に育ちゆく孫日本語は三歳にして異国のことば



乾きたる苞脱ぎ落としふっくらと蕾ふくらむつつじの花は



梅雨明けの日に照らされてこの幾日越後三山雪細りゆく



長幼の序は死語ならむおはやうと言へば若きはどうも!と応ふ



若者の茶髪も男の束ね髪も目立たずなりぬいづれ止むべし



沖縄の旅終へし子は重き問ひ心に沈むとことば少なし



夜半
(よは)覚めて眠れずなりて催眠剤常用せし亡父ふと思ひ出づ



趣味程の稲作なれど積み上ぐるこの米袋年々重し



刈り取りの終りし田より移り来て白菜畑に蝗
(いなご)は太し



出来たての新米を子に送らむと荷を作るなり雨の夜なべに



以下、冬〜春の句になります。


雪降れば冬のにほひと言ひし娘よ異国の雪に何思ふらむ



雪の上
(へ)に新しき雪又積みて嵩(かさ)減らぬまま春彼岸来ぬ



コンサート終へて出づれば春の夜の淡雪夢の続きのごとし



首すくめすぐ逃げたがる児をなだめ冬の間に伸びし髪切りやりぬ



畑の上の四、五尺の雪消さむとて灰を撒くなり凍
(し)み渡りして



移り住みて子は馴染むらし今日からはサマータイムに変はる異国に



冬の間にわが脚弱くなりたるや橋の坂にて自転車上らず



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Tue.

百歳の人にこやかに

引き続き未掲載分をまとめて掲載します。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は平成8年で母が58歳の頃の作品です。
二回に分けて掲載します。



流れ着きし蛇五千とぞ職務にて数ふる人の忍耐思ふ



外国の山野駈け行く児
(こ)の姿思ひて届きし写真に見入る



夜の闇は眼
(まなこ)にやさし読み疲れ夜更けの明かり消し瞼(まぶた)閉づ



百歳の人にこやかに「よき人生でした」と言ふに涙溢れぬ



以下、冬の句になります。


二昼夜の吹雪をさまり凍てつきし窓に薬缶
(やかん)の湯を注ぎ開けぬ



「県境は通行止め」の電光板雪融くるまで消えぬその文字



寒中に建前をする家ありて槌音は雪野を渡り聞こえ来



冬寒き国に住む児
(こ)へ送らむとセーターを編む雪にこもりて



雪の日は地下水屋根に流す家氷柱
(つらら)は一米を越えて伸びたり



風止みし後しんしんと雪積むを窓に確かめ夫
(つま)と早寝す



日に幾度雪かたづくるわが笠に雪降り積みてたちまち重し



風邪に臥
(ふ)すわれに代はりて厨辺に立つ嫁のゐるこの安らかさ



口数の少なき嫁なれど風邪に臥す吾を気遣ひて粥炊きくるる



隣家も見ゆるは二階のみにして六日降りつぎし雪うず高し



三月の風冷たくて幼児
(をさなご)のやはらかき頬のひび未だ癒えず



東京に雪降るといふ今日一日底冷え著
(しる)く風花(かざばな)の舞ふ



寒気少し緩
(ゆる)びたるらし窓に見る氷柱の先に雫の生るる



冷えし足苦にせぬ幼
(をさな)靴下も履かずひねもすころころ遊ぶ



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Mon.

陽に映えて

7月で更新終了とする予定でしたが、8月に入ってしまいました…。

引き続き未掲載分をまとめて掲載します。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は平成7年で母が57歳の頃の作品です。



家のものみな旨しとて退院の夫
(つま)は夕餉を時かけて食ぶ



思はざる人より電話かかり来て村議選挙の賑
(にぎ)はしきかな



月の夜を歩み来たればほのぼのとけやき若葉は桜のごとし



流れつき川辺に林なす胡桃枝は橋まで伸び花ゆらぐ



寺庭の松に登りて咲く藤の逞
(たくま)しすぎて空恐ろしき



陽に映えて色美しき前山の斜面に咲ける藤も卯木
(うつぎ)



四月より時差一時間縮まりぬ子の住む国は夏時間
(サマータイム)にて



乾燥の注意報続くこの日頃厨辺
(くりやべ)の塩さらさら乾く



列車待つわが足元をくぐりぬけ駅の鳩らは人を恐れず



雨降れば倒るる稲を気遣ひて夕立の音
(ね)の激しきを聞く



立秋の夜の月円
(まど)かにかかれるを出でて仰げば鈴虫の鳴く



チューリップ数多植ゑ込み来年は住まぬ借家の庭整ふる



夕方は勤め退けくる親を待ち孫は車の気配を待てり



以下、冬〜春の句になります。


細々と子は伝へ来ぬ外
(と)つ国のクリスマス行事われに知らすと



行くあてはなけれど旅のパンフレット繰
(く)れば楽しも夜の炬燵に



生け置きし赤芽柳の解
(ほぐ)れつつ二月の日差し明るくなりぬ



雪の中ゆ
(=中から)掘り出だしたる月桂樹葉群の緑しるく香のたつ



(こ)が二年住みしアパートの軒下に植ゑし水仙今も咲けるや



若き日は嫌ひてをりし畑仕事今楽しみに雪消ゆるを待つ



雪解け水洗ふ中州
(なかす)の猫柳芽吹く兆しにはつか黄ばめる



雪解け水洗ふ岸辺にほんのりと黄の花のごと柳芽吹ける



(ほころ)ぶに未だ風寒く木蓮の数多の花芽空指して待つ



花見終へし異国の人ら塵ひとつ残さず拾ひ持ちて帰りぬ



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Fri.

会へばすぐ

引き続き未掲載分をまとめて掲載しています。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は平成6年で母が56歳の頃の作品です。
二人の孫が生まれた平成5年以降は、歌の数が多くなりました。



目の弱くなりたる夫
(つま)が眉よせて
       もの見るはいつか亡き舅
(ちち)に似る



子ら住めば親しと思ふ去年までは降りしことなきローカルの駅



大き手の温かかりき再会は是非ミュンヘンにてと別れし人は



五月晴れに香り放ちてそよぎをり
       ラインオレンジとふ
(=という)スイスの花は



殊更
(ことさら)に暑き夏にてコシヒカリは黄金色なす葉月半ばに



雨足りぬ夏を堪えぬき杜鵑草
(ほととぎす)丈低く花小さく咲きぬ

杜鵑草
花の写真は季節の花300さんからお借りしました。



(さへず)りのごとひとしきり声のして園児の列は角曲がりたり



稲架干しをなす人絶へしこの盆地秋の日普
(あまね)く刈田を照らす



会へばすぐ記憶もどるらし幼孫われになつきてひねもす遊ぶ



長生きの質と思へぬわが家系に叔母健やかに米寿を祝ふ



宿に近き谷に拾ひし小石ひとつ鞄に一夜の旅から帰る



掛け布団畳へすべり易くして夫
(つま)留守の部屋の夜の時長し
(父が入院中のことでした。)


以下、冬〜春の句になります。


小正月過ぎて日脚のやや伸ぶと仰ぐ西空夕月かかる



空の果て野のはたてともけじめなく視界おぼろに雪降りしきる



除雪車の底龍る音遠離
(ざか)り静寂かへる午前の三時



雪の日にマウイ島より来し電話心地よき風と陽気に伝ふ



この川に冬を凌ぐや青鷺は中州の石にすっくと立てり



季節風海から強きこの町の女衆のやうに髪包み行く



昨日の氷雨上がりて霧の晴れしかば八海山の雪五合目あたり



きれいねと云へば背の子ものけ反りて共に仰ぎぬ冬の蒼空
(あおぞら)



冬川の水は真澄みて淀みにはうぐひ集ふが土手より見ゆる



(せな)の子に語りかけつつ歩む土手冬うららにて蓬(よもぎ)青める



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Tue.

対岸の鷺目ざとくて

引き続き未掲載分をまとめて掲載しています。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は平成4〜5年で母が54〜55歳の頃の作品です。


亡き父の齢
(とし)にわが身を重ね見る夫(つま)とはなりぬ職退きてより



対岸の鷺
(さぎ)目ざとくて手洗ふと土手下りゆくにはやも飛び立つ



暮れなずむ高崎の街子が四年住みたるあたり車窓に見て過ぐ



ことさらに蝉の亡骸目につきし雨多き夏短く過ぎつ



富士登山つひに果たせず夏過ぐと若者は冷夏を嘆きて言ひぬ



以下、冬〜春の句になります。


雷の遠退きし後降る雪は風伴ひていよいよ激し



寄り集ひこの真冬日を耐ふるらし庭池の鯉所を変へず



この川に冬凌ぎしや雪解水洗ふ岸辺の石に立つ鷺



人心の荒
(すさ)びしひとつ雪解水退きし川原のあまたのごみは



わが家に春来ししるしに北東の窓に朝光一時さしぬ



春浅き山荘の窓雪荒れて会議は嫁なき話にて終ふ



職退きて日々を炬燵にゐる夫が時に追はれぬ安けさを言ふ



トンネルをぬければ青き麦畑雪国ゆ
(=雪国から)来し眼(まなこ)に眩し



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Sat.

うから集へば

引き続き未掲載分をまとめて掲載しています。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は昭和63年で母が50歳の頃の作品です。


つれだちて桑畑に実を採りし日の話出でたりうから集へば
    (うから=血縁の人々。ここでは母を含めた六人姉妹のことになります。)


少年に文法を説く夫
(つま)の声に調子あり教職を退きたる今も



以下、冬から春にかけての句になります。


掘りのくる新雪五尺の下にして黄沙に染める層やはらかし



暖冬とテレビは云へどわが里は一夜の雪に窓ふさがりぬ



幾日ぶり雪消えし露地乾きたり下駄の音聞けば春とぞ思ふ



冬囲い解きつつをればいづくより味噌豆を煮る匂ひ漂ふ



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Wed.

弥彦嶺の

7月末でブログを終了するつもりでいるのですが、
その7月も残り少なくなってきました。

引き続きこれまでの未掲載分をまとめて掲載します。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は昭和58〜62年で母が45〜49歳の頃の作品です。


弥彦嶺の霧深きまま時過ぎて見えざる佐渡を思ひつつ下る



(つま)も息(こ)も義弟も声の相似れば受話器を取りて一瞬戸惑ふ



かりそめの慰めは云はず繰り言を諾
(うべな)ひ聞きて病室を出づ



迷ひつつ昨夜したためし辞職願朝の光の中に確かむ



以下、寒い季節の句になります。


初雪の山夕映えて畑は翳り手足冷えつつ芋掘り急ぐ



初雪の尾根辿りゆくバスにゐて見渡す里は夕雲なびく



街川の濁りさびしも日暮れまで捨てられし雪運びて流る



雪中のハウスに唐菜育ちゐて葉は萌えそめし薹
(たふ)を抱ける



傘の雪をりをり払ひ歩みゆく道夕暮れて会ふ人もなし



春の雪降りしきる夜を若者らの祭囃子の稽古が聞こゆ



氏神の社に春の雪積みて祭囃子はくぐもり聞こゆ



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Mon.

庭木に蝉の

これまでの未掲載分をまとめて掲載中です。
(季節感は無視しております。ご了承下さい。)

今回は昭和57年で母が44歳の頃の作品です。


受からざる受験重ねし子と並び車窓に見たる富士を忘れず

これは兄ではなく私のことであったと付け加えておきましょう。
「重ねし」とありますが、3つ落ちたのだったかな、と思い出します。
(落ちて当然の様な難しい所ばかり受けさせられました。)
ちなみに兄は受けた大学全て合格しました。


死に別れ七十年経し夫
(つま)の顔忘れたりとぞ百の媼(をうな)

近所の高齢のおばあちゃんがそういう事を言っていたのが
とても印象的だったようです。


五十階のビルの上に来て街明り広がる様を娘
(こ)と並び見つ

新宿の高層ビルでした。


城跡の葉桜映る堀水を行く白鳥につきて歩みぬ

当時兄の住んでいた高崎市でのことと思います。


庭畑に葱
(ねぎ)植ゑをればトタン屋根に音して柿の花は落ちつぐ



梅雨の間の真夏日にして雪残る遠山の上雲移りゆく



さざめきて乙女ら席を決めし後人声もなく列車は走る



高速路の工事音たえし真昼間を鎮守の森に湧く蝉しぐれ



移り来て十年を経ぬわが植ゑし庭木に蝉のぬけがらも見ゆ



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Mon.

生れて名もなきまま

これまでの未掲載分をまとめて掲載中です。
今回は、昭和50年母が37歳の頃の作品です。



生れて名もなきまま逝きし子を語る妹の声電話に低し



戦止まぬ国を伝ふと荷を負ひて死にたるラクダテレビは映す



行き交ひの車の飛ばす水雪を云ひつつ夫
(つま)も子も帰り来し



選挙車の行き交ふ日頃思はざる人が親しく声かけてゆく



山切りて拓きし道を行くバスに揺れつつ遠き海を見放くる



夏休み終りし子らが口重く挨拶なして家を出でゆく



一段となりて駆けゆく生徒らのかけ合ふ声が丘より聞こゆ



子も日々をかく通ふらむわが乗りし汽車に生徒らひしめきて立つ



藁を焼くにほひ混れる夕風の中にてひとり稲架を解きゐる



被りたる白き手拭ひ動きつつ媼
(をうな)が杉の落葉を拾ふ



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Sat.

水面くらき

これまでの未掲載分を、季節に拘らず順に掲載しています。
今回は、昭和49年で母が36歳の頃の作品です。



人生など語りてをれど教へ子と酒くみ交はす夫
(つま)酔い易し



細ぼそと入る水に向き沈みゐる真冬の鯉の動くともなし



選挙車が小さき村を巡りゐて声遠近にひすがら聞こゆ



階段に明りもれつつ学ぶ子は夜明け近きにまだ起きゐたり



熱すぎる炬燵わからぬまで冷えて帰りし夫がしきり盆もつ



籾を蒔く苗田の囲りは雪野にて吹く風寒し翳りてくれば



山土を運び拓
(ひら)きしわが小田は鍬(くは)振る度に石打つ音す



夜中まで学びゐる子が眠る刻吾がしらぬ日々続きて永し



水面くらき庭池を夫と見てあればおもむろにして蛍過ぎゆく



網走の海に退く波追ひかけて拾ひし貝と子がとりいだす



小春日の田に籾殻を焼きつぎて煙のにほひまとひて帰る



常の日は何気なけれど四、五日を夫の居らぬはやすらぎに似る



わが家の前にて低く落つる川夜にはいつも高き音する



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Wed.

曇り日の

今回は母が35歳の頃(昭和48年)の作品の未掲載分です。



長じたる子ら離れ住み老のみの向ひ家は宵ながく点さず



部屋の灯を消す刻早く眠る子は汽車通学にまだ慣れぬらし



教師らのストを見越して空席の多き教室と聞くはさびしき



曇り日の気温上らず朝顔は開きしままに夕べ
(ゆふべ)となりぬ



方形に月の光あるわが部屋に夜更け帰りて灯さず眠る



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Mon.

月ゆらぎをり


田を一年耕さざると決めしこと亡き舅あらば如何に嘆かむ



土踏みて歩みたしとふ団地なるビルの十階に住む妹は



流るると見えず静かな池の面
(も)に月ゆらぎをり鯉動くらし



秋空に棟上げの餅躍りつつ落ち来る方へ人みな動く



以上、昭和47年、母が34歳の頃の作品から、未掲載分を載せました。


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Sun.

口荒れて

その時どきの季節に合う歌を、見落としの無いよう掲載してきたつもりでも、
こうして再び始めから見直していくと、なかなかどうして、掲載もれが見つかります。
今回は、正月の歌や三学期始業日の歌など混じり、実に季節はずれとなりました…。




(と)ふ人もなき事務室に伝票を繰(く)れば終日わが足は冷ゆ



賀状繰る夫
(つま)が時折嫁ぎゆき姓のかはりし教へ子を云ふ



高台の校舎ゆ
(=から)ひびく楽ありて今日三学期始業の日なり



夏野菜の苗はぐくめば夫と子と交々
(こもごも)覗く小さき温床



出穂近き稲田はみどり深くして音なき雨はひもすがら降る



熱出でし息
(こ)が痛しとふ(=と言う)口の中覗けば白き親知らず見ゆ




口荒れてもの云えぬ子がわれに書く話しことばを連ねし手紙


こ…これは、実に忘れもしない思い出です。
この句は私のことを詠んだもので、私が11歳の時のことでした。

中耳炎で耳鼻科にかかり、
そこでもらった薬にアレルギーを起こして口の中がひどくただれてしまい、
特に最初の3日間ほどは痛みがひどくて、口を僅かにでも開けることすら出来なくなった、
という状態になったのでした。

ものが食べられなくなったので、
一週間も学校を休むうちにはかなりげっそりと痩せました。
ひどい目に遭ったものです。

母に言いたいことがあっても喋れなかったので、紙に書くことを思いつきました。
母は、私のその思い付きを面白がったようでした。

薬がいけなかったのだと母がさっさと気づいてくれればよかったのですが、
母も、どうしてこんなことになったんだろうねぇと首をかしげるだけで、
結局原因がわからぬまま、
私はこのあとの数年間でさらに二度も同じ薬で同じ目に遭う羽目となりました、とさ。

母がやっと薬を疑ってくれたのは、私が三度苦しんだそのあとのことでした…。



ということで、以上母が33歳の頃の作品でした。

前回が昭和45年でしたので、今回は昭和46年の分から掲載しました。


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Sat.

湿りたる風が運びて

随分と長いこと、ブログを放っておいてしまいました。

これまでに「花咲く道」ブログを訪問して下さった方々、どうもありがとうございました。
ブログの更新を、今月で終了したいと思います。

もう一度、歌集の最初の方から順にページをめくり、
これまでの未掲載分から適当に選んで載せて行きますので、
季節にそぐわない歌が脈絡も無く並ぶこともあるかと思いますがご了承を。
それでは行きましょう。



湿りたる風が運びて夜の窓を閉じても栗の花房にほふ



新築の向ひ家に今宵灯が点り子らのはしゃぎて動く影見ゆ



老衰に死ぬるが幸といふ医師のことば思ひつつ投薬を待つ



発車近き下りの列車ざはめきて訛
(なまり)親しき人ら溢(あふ)るる



勤めざる我も土曜を安らぎて目覚ましのねじ巻かずに眠る



昭和45年、母が32歳の頃の作品です。


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Mon.

夕餉あと


夕餉あと居眠る夫
(つま)よ思はざるきびしさありや再度の職は


腰曲ぐるゲートボールは好まずと夫は歌書く職退きてより


高校の教員だった父は、定年退職後しばらくして
非常勤講師として再度勤めることになりました。
母50歳、父62歳でした。


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Tue.

目を瞬く花嫁の父


病持つ身なれど具合よき夫
(つま)と駅の階段並びて登る


挨拶の言葉つまりてしばしばも目を瞬
(しばたた)く花嫁の父


姪の結婚式で上京したときの歌のようです。
母58歳、父70歳でした。

次も同様の歌で、その一年後になります。


祝詞受くる横顔少し淋しげに義弟今日は花嫁の父


歩み行く多摩川べりの目交
(まなか)ひに羽田空港海にひらけり


次々に航空機たつ目交ひの羽田空港見つつ散歩す



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Wed.

わが春愁は


冬の間に逝きし幾人思ひゐるわが春愁は父母逝きし後


母が49歳の時の作品です。
父親が亡くなり15年が、母親が亡くなり4年が経っています。


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06:00 | 両親 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

職退きて

更新せぬまま随分とまた日が経ってしまいました。
3月も今日で終わりですね。



職退
(の)きてさびしき夫(つま)か時かけて離れ住む子らへ手紙書きをり


職退きしことへ便りも来ずなりて家居の日々に夫慣れるらし


父がその年の3月で教職を定年退職し、数ヶ月ほど経った頃の歌です。
しかしじきに、父は非常勤講師として再度勤務することになります。


乞はるるはしあわせと言ひて還暦の夫は再び勤めに出づる


母48歳、父60歳でした。


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