Mon.

ゆきちがふ思ひのありて


黄ばみたる夫
(つま)の教員免許状家を支へて二十年経ぬ


若き日の夫が日記にわれのことやさしき少女と記しをきたり


その性に似しごと若き日のままに夫の字画のくずることなし


夫とゐて夜の刻長しゆきちがふ思ひのありて黙してをれば



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Tue.

たまさかに歩みて親し


たまさかに歩みて親し日々夫
(つま)が職場へ通ふ長き坂道


教へ子の家出を案じゐる夫が夜の電話を待ちて眠らず


受けもてる生徒らの顔揃ひをれば朝まづ安堵すると夫云ふ


納得に子の手間どれば文法を説きゐる夫の声高くなる


黒板に同じ文字書き夫と子が互に癖を云ひ合ひてをり



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Fri.

半生を共に生き来し


妻われに諦
(あきら)め持つや
          この日ごろ腹をたてざる夫(つま)となりたり


寡黙にてこと足る日々の夫と吾が話自
(おの)づと子らに及びつ


わが言葉聞くを拒みて立ち上がる夫よいつからかく変わりたる


わが理解及ばぬ日あり半生を共に生き来し夫なりしかど


昭和30年代前半に18歳で結婚した母が、36歳から48歳までの間に詠んだ作品です。
二句目では母は44歳、兄も私も就職し既に家を出ておりました。

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Wed.

胃痛むと朝餉をぬきて


朝々の洗面すめば夫
(つま)の顔勤めにむかふきびしさをもつ

 
胃痛むと朝餉をぬきて出でゆきし夫のこと一日心を去らず
 

ありし日は夫を疎
(うと)みし人の骨抱きて夜更け夫帰り来ぬ

 

母30代前半の頃の作品です。
(三句目は、雑詠カテゴリに入りそうな歌ですがこちらに掲載しました。)

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Fri.

梅雨寒の


雨の日の工事現場に散る火花しばしば見えて雨にけぶれる


梅雨寒の夜を早寝せし夫
(つま)の背に布団かけやり明りを消しぬ



母56歳の時の作品です。


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Tue.

釣る夫に


釣る夫
(つま)に昼餉運ぶと葛(くず)の蔓(つる)に足とられつつ土手を下りゆく


高校教師をしていた父は、鮎釣りが趣味で、
学校が夏休みになると、毎日のように朝から晩まで川に行っていました。
(当時の教師というのは、今と違ってほとんど毎日休めたのです。)

いつもならば、早朝に釣りに出かける父にお弁当を持たせていた母でしたが、
この日は昼におにぎりでも届けに川に向かったのでしょうか。

10年も寝たきりだった父方の祖母が亡くなったのはこの夏のことで、
母は36歳でした。



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Wed.

病室に


病室に近づくわれの靴音を聞き分けて待つと臥す夫
(つま)の言ふ



病院に通ふ間隔遠のくと帰りし夫はうれしげに言ふ



母57歳の時の作品です。


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Tue.

夫の靴音


木枯らしの掃きたる露地を帰り来る夫
(つま)の靴音待つ夕まぐれ



母44歳の頃の作品です。


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Mon.

病棟に夫を見舞ひて


病棟に夫
(つま)を見舞ひて帰る道十三夜の月まどかにかかる


看護婦はみなわが子より若くして夫の枕辺に言葉やさしき


苛立ちて待ちゐるわれにうら若き看護婦
(ナース)冷静にてもの言ひ優し


注射跡日々新しき夫の腕ややに衰ふ二十日のうちに


元旦の人気少なき病棟に夫を見舞ひぬ娘家族と


わが心疲れゐるらしたはやすく涙溢るる夫病みてより


日に三個の点滴終れば安堵して夫は眠れる腕そのままに


この年の10月から翌年にかけ父が入院しました。
母56歳の頃の作品です。


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