Mon.

わが母の老ひたまひたり


鞠かがる母の顔やや細りしか老眼鏡の時折下る


義歯入れてととのひたれど若き日と口元違ふ母となりたり


上下とも義歯となりしをはづしたる母の口元さびしみて見つ


わが母の老ひたまひたり歌ふ声伸びきらずして時々切るる


何も要らぬと云ひはる母を伴ひて客まばらなる呉服屋に入る



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Tue.

三月の潮風寒き


三月の潮風寒きキャンパスを入試の吾子と黙し歩みぬ


ふりむかず子はキャンパスに消えゆきて受験の長き時はじまりぬ


松原の彼方に青き日本海に祈りつつ受験終る子を待つ


人混みの中押されては動きつつ合格者名簿に子の名を探す



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00:34 | 息子 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Wed.

熱いでて


熱いでて吾が臥しをれば思はざる重荷となれり動けぬ姑は


冬の日も病めれば長し学校を退けくる吾子をひたすらに待つ


熱いでて臥しをれば子が帰り来て厨
(くりや)にたつる音に安らぐ



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00:22 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

馥郁と


雪囲ひ解きし庭木に降りつもる弥生の雪は三日も止まず


春暖の後降る雪は花咲きしクロッカス福寿草埋めて積もりぬ


馥郁と部屋に香りし盆栽の梅散りそめぬわが立居にも



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Fri.

麻痺癒えぬ姑の


(つま)と抱く老い姑(はは)重し風呂場まで声かけ合ひていたはり運ぶ


湯の中に握りし指をほどきつつ麻痺癒えぬ姑の手を洗ひやる



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Sat.

日だまりに小鳥の籠を


常ならぬ陽気に咲きし福寿草その後の雪に花閉ざしつぐ


降りそそぐ雪に揺れつつ紅ばらは開きはじめし蕾
(つぼみ)をかかぐ


次々と掌にのりてくる十姉妹かそけき重み温みをもてり


日だまりに小鳥の籠を並べつつ受験終りし娘が憩ひをり



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00:00 | 花、鳥 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sun.

われも又かく老ふる日のくるものを


(ちち)逝きて昼静かなる家隅に長病む姑(はは)の寝息が聞こゆ


時折りはいとふ心を励まして流れに姑の便器をみがく


幾たびか買ひたる便器錆びそめて姑の病の癒ゆるともなし


われも又かく老ふる日のくるものを常臥す姑に苛立つ日あり


病む姑が夜の眠りに入る時にわが一日も終りとなりぬ



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Mon.

亡き舅の残せし酒も


雪広く踏みたる中にしつらへし柩
(ひつぎ)へ香の煙たなびく


亡き舅
(ちち)の残せし酒もたづさへて奥津城へ雪の野を渡り行く
奥津城(おくつき)=墓所



左手に飯食む姑
(はは)がときをりに匙(さじ)鳴らしをり舅なき部屋に



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07:33 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Mon.

よき位置と思ひて


よき位置と思ひて付けし掛け鏡屈みて覗く子らとなりたり


(つま)も子も励みてをらむ
        むさぼりし午睡
(ごすい)覚むれば罪のごとしも


音荒き部屋を覗けば体操を習ひゐる娘
(こ)は逆立ちしをり


街灯の明り及べるわが部屋の月夜も闇もなきをわびしむ



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19:01 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

日々命保てる姑と


花の便りかかはりはなし日々命保てる姑
(はは)とこもりつつ過ぐ


(ふ)す姑が吾を呼ぶチャイム鳴り出だし

                真夜(まよ)の眠りの深きより覚む


満ち足りし眠りなき夜を重ねゐて微
(かす)かな頭痛われより去らず


老い姑に癒ゆる当てなしわが看
(みと)り惰性のごとく十年経たり



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05:00 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Wed.

消え残る雪のうつろに

消え残る雪のうつろに萌えいでて福寿草はやも蕾をかかぐ


雪囲ひ解けば広がる連翹
(れんぎょう)にふくらみそめし蕾ひしめく


三月も終るに続く雪の日を窓辺に置きしクロッカス咲く




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04:12 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

散髪


雨止まずこもりゐる午後時かけて夫と子の髪わが刈りてやる


バリカンにのりくる髪のかさばりて刈りやれば子の首長く出づ


夫の髪刈りてやりつつまた少し白毛のふへしことにはふれず



作者35歳の時の作品です。父(当時47歳)と兄(当時16歳)の髪を切った日です。
兄の髪を切り終わって母が、「首がずるんと長く出たねぇ」と言って笑ったのを覚えています。

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06:16 | 雑詠 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Fri.

薬の香口に残りて


欠けし歯に唇の内触るること気にかけながら二月は過ぎぬ


薬の香口に残りて歯医者より帰りてすする粥はわびしも


独り居も楽しからずや繰り返し声出だし読む毎日歌壇



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02:08 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sat.

父逝きし夜を春の雪降る


蕗のたふ
(ふきのとう)摘むは楽しと書きし後
             日記余白にて父逝きたまふ


上京の日を待ちゐたる父逝きて
             そなへし背広壁にかかれる


言葉なく子ら枕辺に集
(つど)ひつつ
             父逝きし夜を春の雪降る


母方の祖父は69歳で亡くなりました。
母が34歳の時のできごとでした。

「 父はその日まで元気で、近く上京すると云っていたので、
 (脳溢血で)突然倒れ三時間足らずで息を引き取ってしまった時には、
 本当に呆然といたしました。」

母が当時を振り返りエッセイに書いています。
いつかそれもご紹介したいと思っています。

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04:20 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sun.

さし木して育てしつつじ


さし木して育てしつつじわが庭に植ゑよと抱へ来し父なりき


逝く日まで働きをりしわが父を老ひたる人ら羨
(とも)しともいふ



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01:56 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sun.

母なれば


母なれば命懸
(か)くると腎を娘(こ)に分かちて友はさはやかに言ふ



我が子のためならばこのような決心を出来るものと思います。
母は強し。

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20:57 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Mon.

緑濃き葱は萌えそむ


みどり濃き葱
(ねぎ)は萌えそむ残雪の影及びきて冷たき土に


道端の雪汚れつつ退けるかたへに早も草青みそむ


残り雪五センチ程を突き抜けてチューリップの芽は並び出で来ぬ


春暖の幾日かの後降る雪に伸びし水仙半ば埋まりぬ



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00:19 | 花、野菜 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

たまさかに歩みて親し


たまさかに歩みて親し日々夫
(つま)が職場へ通ふ長き坂道


教へ子の家出を案じゐる夫が夜の電話を待ちて眠らず


受けもてる生徒らの顔揃ひをれば朝まづ安堵すると夫云ふ


納得に子の手間どれば文法を説きゐる夫の声高くなる


黒板に同じ文字書き夫と子が互に癖を云ひ合ひてをり



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Wed.

卒業証書受くる子を見つ


窓近く高き雪壁迫りゐて卒業式の講堂寒し


冬日光ぬくもりもなくさす席に卒業証書受くる娘
(こ)を見つ



私の高校卒業の日でした。母はこの時37歳。
私はあの当時、母に短歌を詠む趣味があろうとはまったく知りませんでした。

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20:58 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

わが歌いつか


風邪ひきて吾が臥す時も容赦なし老姑が呼ぶチャイムの音は


仰臥して飯食む姑が手間どるを見つつ急
(せ)きくる心押さえつ


日に幾度抱く老姑の重すぎて左腕いつも微
(かす)かに痛む


夢のごと聞きてをりしは真夜に呼ぶ老姑の声漸
(やうや)く目覚む


姑病みて十年を経ぬ姑を詠むわが歌いつか愚痴となりつつ


姑とは、言うまでもなく私の父方の祖母のことです。
祖母は、亡くなる前の十年ほど、半身不随で寝たきりの状態でした。

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Fri.

さくら草の発芽を待ちて


野の雪の平たくなりし彼方にて桜の幹の日々現はるる


さくら草の発芽を待ちて軒下の土覗き見る雪舞ふ今日も


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Fri.

ためらひ永く


わが白毛
(しらが)抜きくれ乍(なが)ら下の子は黙す間もなく友の話す


幾度
(いくたび)も白毛染めよと娘(こ)のいふにためらひ永く日を過しをり


光線の明るきときは茶色にも見えて染めたる髪になじめず


茶髪などなかった昭和40年代の作品です。
一句目では、母は32歳、私は10歳でした。
ニ、三句目は、その4年後の作品です。
当時の母には、髪を染めるに対してよほどの抵抗があったようです。
私が何気なく、髪染めればいいじゃない、と言った言葉が、
それほどに母を悩ませたとは露知らず、申し訳ないことをしました。

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08:10 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sat.

君逝きし岸辺かなしも


野の道の雪消えたれど愛犬と共に歩みし君すでに亡し


君逝きし岸辺かなしも猫柳はつか青めるあの日のやうに


亡き友人を詠った、作者56歳のときの作品です。

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Sun.

金魚


積む雪の漸
(やうや)く解けし庭池に生きて金魚の赤き色見ゆ


そう言えばかつては庭に池がありました。
この金魚は夏祭りにでも兄か私が買って来たのだったか…。
この句、私はとても気に入っています。

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05:28 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Mon.

テレビ見る他に術なき


テレビみる他に術なき常臥しの姑
(はは)のテレビをひもすがら聞く


常臥せば眠れぬ姑か夜の更けに吾を呼ぶチャイム幾度も鳴る


この頃母は35歳、私は13歳でした。
祖母が寝たきりになって7年か8年か経った頃だと思われます。
母がたまに留守の時は、私が祖母の下の世話をするのですが、
それが面倒でとても嫌でした。
祖母のことで母がどれ程苦労していたか、また、
寝たきりの祖母がどれ程つらく気の毒な状態だったか、
子供の私には思いやる気持ちがありませんでした。

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Tue.

われ母として


容赦なき夫
(つま)の言葉と思ひつつ黙してゐたり子に憚(はばか)りて


幾日かもの云はぬ夫に平静をよそほひてゐるわれ母として


母が三十代半ばの時の作品です。
母は早くに結婚し、この句を詠んだ時、嫁いで既に17年が過ぎています。
父は高校の教師でした。母より一回り年上で、誠実ですが非常に厳格な性格だった父は、
腹を立てると何日も口を聞かなくなる人でした。その父も他界し、4年が経ちます。

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06:50 | 自分 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Wed.

色暗き毛糸を編めば


色暗き毛糸を編めば雪の日は昼過ぎ早く眼
(まなこ)疲るる


わが編みしセーターを着て人行けば振り返りたり型を気にして


春から秋は農作業に忙しい母でしたが、冬になるとよく編み物をしていました。
母は手先が器用だったので、手編みも機械編みも得意なようでした。
機械編みを習っていた時期があり、ふろしきに包んだ編み機を背負って
雪降る中を編み物の先生のお宅に向かう母の後姿を見て、
当時12歳の私は、まあ大変だろうに、よくやるなあ、と思ったものでした。
知人に頼まれセーターを編んだことも何度もあったように思います。
昭和40年代後半、母が34歳の時の作品です。

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00:04 | 趣味 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

只見線


只見線
(ただみせん)の一番列車人気なき車内明るく点(とも)しつつ過ぐ


魚沼
(うおぬま)の三月は冬の続きにて雪野に沈み行く只見線


野辺の雪消えて今宵は只見線の終列車の音間近に聞こゆ


家から数百メートルのところを、只見線が通っています。
只見線とは、上越線の小出(こいで)駅と、福島県の会津若松駅をつなぐ線です。

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05:50 | 地域 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Fri.

義兄を想ふ

今日はいつもと違う雰囲気でお送りします。

歌集「花咲く道」の中には、母の遺した原稿やノートの中から、短歌だけでなく、
エッセイ、詩、俳句なども含め、できるだけ多くの作品を収めるようにしました。
今日は、その中から詩のひとつをご紹介します。

母は、6人姉妹の4番目でした。
一番上の姉と一番下の妹の年齢差は19歳、と叔母から聞いたことがあります。
ここで歌われている義兄とは、母の一番上の姉の夫のことです。
母の実家に婿に入ったので、五人の小姑の兄となったわけです。


義兄を想ふ


仕事の始まりは雪野の肥え引き


黒き牛を養い堆肥作り


冬は毎晩紙漉
(す)きて


細かきこと云ふ舅に尽くし


おんな小姑五人もありて


つらきこと口には出さず


ありがたきかな正兄様



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04:56 | 義兄 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sat.

母に似し


総入歯になじめぬ母か口ごもる如きに電話ききとり難し


母に似し口元小さく結びつつ息なき伯母の面安らけし


母が35歳の時の作品です。

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