Thu.

朝暗き部屋を点して


(こた)へなき姑(はは)に向ひて
      姑の子らこもごも己
(おの)が名をいふあはれ


衰へて眠れる姑が唐突に亡き舅
(ちち)呼ぶをまじまじと見き


朝暗き部屋を点して冷えそめし姑の死顔を剃りてととのふ


永病みし姑の柩に朝夕にみがきてやりし入歯も納む


年永く歩めず逝きし姑の脚細々として足裏うすし


年永く病みたる故に姑のお骨灰多くして抱けばかろし


祖母が危篤状態に陥る前、何日も高熱が続いたように記憶しています。
このとき母は36歳、私は中学二年生で、夏休みの間の出来事でした。
ニ句目のことは今も良く覚えています。
意識が無いように見えた祖母が、突然目を開けて祖父のことをはっきりと呼んだので、
母はとても驚いたと言っていました。

祖母が亡くなくなったのは夜中のことでしたので、兄も私も眠ってしまっていたのですが、
何年も後になってから母が私達に、「あのとき、夜中でもお前達を起こせばよかった、
ひとが死ぬということはこういうことなのだよと見せるべきであったかもしれない」と
言ったことがありました。

祖母の葬儀が終わった頃に今度は母の具合が悪くなり、
なぜか私も同じ状態になったのですが、二人で1週間も寝込むことになります。

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05:46 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Fri.

姑逝きしのち


(はは)ありて保ちしわれの緊張か姑逝きし後幾日も臥す


喉はれて食物何も要らざれば臥しをり逝きし姑思ひつつ


私が中二の時の夏休みでした。祖母は高熱が出て危篤状態になりました。
亡くなる時まで高熱が続いたように記憶しています。
祖母の葬儀が終わった頃に、今度は母が高熱を出し寝込んだのですが、
じきに私も同じように熱を出して一緒に寝込みました。
まるで、祖母の熱がこちらに移ったような気がして、二人して不思議な気持ちがしました。

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Sat.

望まざる嫁といはれし


土踏まぬ草履
(ぞうり)いくつもいでてきぬ永く病みたる姑の遺品に


亡き姑が病みてこもりし六畳を出てきて夫
(つま)の姑にはふれず


祖母はいつも病みてゐたりといふ子らに健やかな日の姑を語りぬ


朝々を我に結はせて亡き姑は髪切らざりき永く病みても


かへりみて悲しみもなし望まざる嫁と云はれしとほき日のこと


一、二句目は祖母が亡くなった年の作品で、母が36歳の時でした。
続く三句はその翌年の作品です。

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Sun.

野ばらの匂ふ


自転車をひきて歩めり夕風に野ばらの匂ふ径
(みち)に入りきて


幾日もかかり田の草取り終へて野ばらの匂ふ夕道帰る



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17:20 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

相容れぬ思ひもちゐき


相容れぬ性いだきつつ舅姑
(ちちはは)と諍(いさか)ひもなし嫁して十年


諍ふといふにあらねど相容れぬ思ひもちゐき姑
(はは)ありし日は


一句目は、母が32歳の時の作品です。
この時既に、母が嫁いで14年ほど経っています。
何年も寝たきりだった祖母が亡くなったのは、母が36歳の時でした。
二句目は、一句目の12年後、母が44歳の時の作品です。

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06:03 | 舅姑 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

苺畑は


三人の孫を思ひて友作る苺畑は花盛りなり


母の親友のことを歌ったもので、母が59歳の時の作品です。

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21:24 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

苺摘みゐる母を思ふ


この朝も苺摘みゐる母を思ふ夜明けの床に雨を聞きつつ


選果前の苺は山とつまれゐて甘きかほりは作業場に満つ



新潟の苺の収穫は、6月に入ってからでしょうか…まだひと月以上早いですね。
遺されている作品としてはごく初期の作品で、母が32歳の時でした。

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21:33 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

相通ふ思ひを


まだ小さき苗にしあれど手入れする指先しるく菊の香はたつ


菊作る友の来れば相通ふ思ひを持てる楽しさにをり


母は花の手入れが好きで上手でした。
鉢植えのさつきやつつじなど、我が家の廻りに沢山あり、全て母がまめに手入れをしていました。
いつ頃からか母は菊も育てるようになりました。秋の菊花展に出品するような大菊です。
菊作り仲間が近くにいて、時々家に来てもらっては色々おしえてもらっていたようでした。
母が44歳の時の作品です。

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Fri.

打たれしに


打たれしにこだはり夜半
(よは)を目ざめつつ冷えて流るる涙を拭かず


紅ひきて少しは心和みたり眠り足らはずたゆき朝に


わが貌
(かほ)の如何に老けしか過ぎし日に親しき人はふりむかざりき


打たれしに、との言葉を選んではいますが、実際には父に殴られた母でした。
母が菊作りの先生か菊作り仲間(男性)と楽しくお喋りをしていたからとかいう
あまりにも馬鹿げた理由からでした。
今でもあの時の青く腫れた母の顔を思い出すと、可哀想でなりません。
父が生きていたなら、私がこの歌を掲載することに大反対したでしょうが、
その父も亡くなり4年が経ちます。母が36歳の時の作品です。


ひとときの平安にして目覚むればかへる悲しみ抱きて眠る


眠れずに明けし一日は目つむれば暗きに沈む心地に耐ふる


今日は悲しい歌ばかりを集めました。
これはそれぞれ、母が37歳と46歳の時の作品です。
どんなつらい出来事が他にもあったのか、私にはもうわかりません。

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Sat.

野のすみれ


野のすみれ湯呑にさしぬ永病みて外に出づるなき老い姑のため


いささかの慰めとならむ常臥しの姑の窓辺に朝顔を植う



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08:24 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Mon.

さつき一鉢


(はは)逝きし後憚(はばか)らぬひとつにて家居のわれの足音高し


貧血と知りたる後もわれのみの昼餉
(ひるげ)にさして手数をかけず


われのみの昼餉炬燵
(こたつ)に運びくるこの気安さも慣れて思はず


魚を焼くにほひまじれる夕風のなまあたたかし街並み行けば


家内に眺むは白き花よしとさつき一鉢置きて寝につく



一〜四句目、祖母が亡くなった翌年の作品で、母が37歳の時でした。
(三句目に、少々季節外れの歌が入りました。)
五句目はそれからちょうど10年後の作品になります。

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19:19 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Wed.

胃痛むと朝餉をぬきて


朝々の洗面すめば夫
(つま)の顔勤めにむかふきびしさをもつ

 
胃痛むと朝餉をぬきて出でゆきし夫のこと一日心を去らず
 

ありし日は夫を疎
(うと)みし人の骨抱きて夜更け夫帰り来ぬ

 

母30代前半の頃の作品です。
(三句目は、雑詠カテゴリに入りそうな歌ですがこちらに掲載しました。)

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15:49 | | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

古き家毀ちて広き庭隅に

今日は雑詠の数々を掲載します。
雑詠ということでまとめてみると、なるほどテーマがまったく統一しません。


色褪せし安全旗見ゆ完成の近き統合校舎の上に

これは私が通った中学校のことです。
我が家の田畑から見上げる丘にこの校舎が完成しました。
私はこの校舎で初めての中学一年生でした。
私より2学年上だった兄は、中学三年生からここに移り、
この新しい校舎で学んだのは残念ながらたった1年だけでした。


古き家毀
(こぼ)ちて広き庭隅に馬をつなぎし大き石あり

この歌を見て私は、いつだったか帰省した折に母と一緒に行ったことのある
『目黒邸』(新潟県指定文化財、国の重要文化財)だと思ったのですが、
よく見たらこれは私が12歳で母が34歳の時の作品なので、
帰省した折に、というのは外れでした。まったく別のところだったかもしれません。


(すす)ほこり木肌(きはだ)にしみてただ黒き
            位牌
(いはい)を洗ふ文字読みたくて

時ながく古き位牌を拭きをれば慶應の文字かすかに出でぬ

そう言えば、古い位牌の文字が見えてきたと母が言ったような気もしますが、
どのような状況だったのか覚えていません。


空家とはかく寂しきか行くところくもの巣われの顔にかかれり

これもどこのことだったのか…。


ゆかりなき人の法事の席にゐてしびるる足を気にしつつをり



以上、母が33〜37歳の頃の作品です。

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08:00 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Fri.

たまさかに

今回も雑詠のいくつかをどうぞ。


吾が常の顔がかへり来美容師の結ひしかさある髪をくづせば


たまさかに乗りし車の酔ひさめぬ身を支へつつ厨
(くりや)に立ちぬ


方形に月の光あるわが部屋に夜更け帰りて灯さず眠る


たまさかに夫
(つま)のおらねば常の夜は開けをく窓も閉して眠る


母が35、6歳の頃の作品です。

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06:15 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Sat.

子を思ひてをれば


この一夜連絡線に眠る子を思ひてをれば夫
(つま)が云ひ出づ


網走
(あばしり))の海に退く波追ひかけて拾ひし貝と子がとりいだす


これは兄が17歳の時の作品なので、修学旅行のことだったのでしょう。

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20:38 | 息子 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Mon.

娘が買ひくれし


疲れまづ目に覚えあり知らぬ間にわが身に老ひは始まるらしも


節立ちて荒れし手なれど湯上りに娘
(こ)が買ひくれし指輪はめてみる


母が54歳の頃の作品です。

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06:12 | 自分 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Tue.

再び眩しき入りつ日に遭ふ


庭池の蛙水面に日のさせば背伸びするごと手足伸ばせり


日はいつも山から昇り山に入ると信じゐたりきわが幼日は


日の没
(い)りし山裾ぐるり巡り行きて再び眩しき入りつ日に遇(あ)



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06:04 | 雑詠 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

子が伴ひてくるひとを待つ


昼暗く雪降りしきる日曜日子は会ふ女性
(ひと)のありや出でゆく


春の雪降りて積もらぬこの夕べ子が伴ひてくる女性
(ひと)を待つ


(季節を逆戻りしてしまいました。)
兄のことを詠んだものです。母が54歳の時でした。

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04:51 | 息子 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
Thu.

夫の心定まるらしも


肝心のことにはふれず花すぎし梅の林を娘
(こ)と語りゆく


(つま)の心定まるらしも伴ひて来し若者と睦まじき娘に


私自身のことなので、掲載するのが少々恥ずかしい気がします。
一句目は、ある年の2月の終わりごろだったかと思います。
二句目はその年のGWで、私が結婚を決めた相手を連れ初めて実家に出向いた時です。
父は、私達に会い結婚を認めるのには随分と抵抗があったようでした。
この約1年後の6月に私は結婚しました。


若者と娘は手を結び登り行く挙式の宮の長き階
(きざはし)


み社
(やしろ)に雪積みゐたり初夏の日の結婚式は夢のごとしも



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Fri.

身籠りて


ビルの間に富士の嶺白し妻となりて娘
(こ)が住む部屋の窓の遥かに


嫁ぎゆく子がさつき花愛でをりし去年の6月思ひ出づるも


身籠りてもの言ひ優しくなりし子と思ひ電話の声聞きてをり


これも私のことなので少々恥ずかしいのですが、
こういう歌も入れないと、孫誕生の歌がいつまでたっても登場しませんね。

私は東京での一人暮らしが長かったのですが、
結婚後も引き続き東京に住んでいました。
その住まいから、空気の澄む冬の寒い日には富士山が見えました。
母が55歳の時の作品です。

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Sun.

お母さん風邪ひかないで


受話器置きてほのぼの嬉しお母さん風邪ひかないでといふ嫁の声


ロンドンにてマドリッド行きに乗るといふ子の声電話に明るく聞こゆ


嫁といふ呼び名嫌ひし若き日を思ふことあり姑となりて


(一句目、季節が冬の作品になりました。)

兄も私も30代に入ってからの結婚になったのですが、それが偶然同じ年の出来事でした。
兄夫婦は、新婚旅行でヨーロッパに行きました。
母が55歳の時の作品です。

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Tue.

雨のゲートボール大会


ゲートボールに興ずる人ら時たまに子供のやうな仕草を見する


力まかせに打ちても球は通過せず笑ひ声しきり雨のゲートボール大会


一句目は、母が46歳の時の作品です。
人数が足らずに母がかり出されたのが最初だったように私は思うのですが、
実際はどういうきっかけで始めたのか…。

二句目は母が55歳の時の作品です。
意外とゲートボールが気に入って、ずっと続けていたのでしょう。

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Tue.

遠足のごと


甥の婚に招かれて行く姉妹五人遠足のごと列車に乗りぬ


私のいとこの結婚式に、母が姉妹達と揃って出かけた日のことです。
これも母が55歳の時の作品です。

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Wed.

嫁と子と


スーパーを出づればすでに街明り点りて白き夕月かかる


山峡の村は日暮れて夕六時「峠の我が家」のメロディ流る


嫁と子と共に臨月迎へたるこの日頃心落ちつかずをり


三句とも、季節は秋になります。
母が55歳だったこの年の10月、義姉と私は臨月を迎えていました。

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Thu.

生まれて一日の初孫に会ふ


すこやかに育てよかしとガラス越しに生まれて一日
(ひとひ)の初孫に会ふ


みどり児は光見ゆるや明るきに向くれば笑みてまた眠りたり


動くあり泣くあり並ぶみどり児の中のわが孫無心に眠る


母が55歳の10月のことでした。
私は東京の病院で出産したのですが、主人が母に連絡を入れ、
その日のうちに母が一目だけでもと上京してくれました。

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Sat.

熱出でし


熱出でし産褥の子を看りゐる夜更け小さき地震行き過ぎつ


産褥の子を看りゐる二週間垣の山茶花
(さざんか)咲き又散りぬ


熱ひきて産褥の子の眠りゐる部屋内しばし照らす入りつ日


元気よき児
(こ)なりとまだ見ぬ初孫の泣く声電話に聞きて夫(つま)言ふ


東京の風澄める日はくきやかにビルの間に富士山が見ゆ



孫の顔を一目見て帰った母は、後日改めて上京し、
ニ週間ほど私の世話をやいてくれました。
私は乳腺炎で二度も高熱が出てしまいました。


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